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一人は世界のために、世界は一人のために(2016.10)

「おめでとうございます」

おめでとうございます。
こうなったら、先月号の続きを書かざるを得ない。
カープの優勝についてである。

優勝当日の夜は、41年前の初優勝の時と同様の光景が繰り広げられたが、
今回は女性と若者が多かったように思う。
それだけファン層が広がったのだと思う。
あんなにぎっしり人の詰まった本通りは初めて見た。
独走態勢の優勝だったから、デパートやスーパーも準備する時間がたっぷりあった。
41年前は、誰にとっても初めてのことで、どうしていいかわからず、
思い思いに場当たり的に盛り上がったが、
前号で紹介した千人針や古葉ちゃん人形など、
優勝が近づくにつれ、市民による手作りの盛り上がりがあった。

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同じ金座街の飾りつけでも25年の月日でこんなに変わるもんだ。
上)1975年の初優勝 下)2016年のV7

「おめでとうございます」
優勝インタビューで緒方監督は観客席に向かってこう言った。
4年前のこのコラムでもとりあげたように、
サンフェレッチェのJ1復帰後の初優勝が決まったインタビューで、
ぽいち(森保監督)は第一声でなんと、「ありがとうございます」ではなく、
「おめでとうございます」と言ったのだ。

ピッチに突っ伏したまま動かない寿人を見て、
J2に降格が決まった時、必ず自分の力でJ1に復帰すると言って移籍しなかった
寿人のピッチに突っ伏したまま動かない姿を見て、
彼の心中に去来するものを想像して、ぐっときていた時に、ぽいちが追い打ちをかけた。
何てことを言うんだ。
「ありがとうございます」が普通だろう。
なんでお前は俺たちに「おめでとうございます」と言うんだ。

11人のフィールドプレーヤーでやるサッカーには、実は12番という番号がある。
12番・・・それはサポーターなのだ。
サポーターも選手と一緒に戦っているのだ。
だからぽいちは、「ありがとうございます」と言うべき自分たちのことは後回しにして、
いちばん重たい12番にまず「おめでとうございます」と言ったのだ。
未だかつてプロスポーツの優勝監督インタビューでそんなことを言った人はいない。
立ち上がれない寿人の姿とともに、一気にあふれた。

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サポーターは大切な12番目のプレーヤなのだ。

緒方は最近よくぽいちと食事したりするそうだ。
その中で、いろいろな話が出たことは想像に難くない。
多分、緒方がぽいちの話を聞いて意を新たにすることが多かったんじゃないかと思う。
例えば、ぽいちは試合後のあいさつで、自分を営業部長だと言い、
とにかく試合を見に来てほしいこと、できたら年間指定席を買ってほしいこと、
あらゆる面で皆様の入場料がチームを支えていることを訴える。

今年のカープの試合後のインタビューは、監督だけでなく選手も、
「試合を見に来ていただいてありがとうございます。明日も見に来てください」と言う。
今年のチェケットは入手しづらく、プレミアムもついている。
そんな高価なチケットを買って見に来ている人に、負けという結果を見せていいのか。
「今日は負けました」とお客さんに簡単に言えるのか。
仮に負けたとしても、お客さんを納得させ、明日につながる負けにしないといけない。
多分、緒方は選手にそう言っているはずだ。

ホームゲームでの勝率が異常に高いのも、「神ってる」終盤の逆転が多いのも、
決して偶然ではない。
びっくりしたのは、ベイスターズがCS進出を決めた試合後のインタビューで、
ラミちゃんが「おめでとうございます」と言ったのだ。
この言葉に込められたものが理解され、共感を持って広がり始めている。

ファンが球団をつくる

「おめでとうございます」の言葉の背後には、
ファン(サポーター)によって自分たちの全てが成り立っているという認識がある。
自分たちの食い扶持(契約金)の源泉は、
チェケット販売料、放映料、グッズ販売料等である。
オーナー会社を持たない球団では、
これらはすべてファン(サポーター)が担っているのである。
大切にすべきものの順番は、まず、ファン(サポーター)であり、
次に、強くなって試合に勝つことである。
そして、試合に勝つには相手がいて初めて成り立つことであり、
リーグが栄えることが必要である。

Jリーグが発足した時、「百年構想」を立て、
地域でのスポーツ文化、即ちフランチャイズ制を育てようとした。
自分のチームばかりを見てリーグのことを考えなければ、そのリーグはやがて衰退する。
「自分よし」ばかりがあって、最も大切な「世間よし」がそこにはないからである。

どんな業界でも、業界全体の発展の中で自社がある。
他社を排除して自社の利益ばかり考える事業者では業界は発展せず、
その事業者はやがて方向修正を余儀なくされる。
どんな業界でも多くのステークホルダーによって社会につながっており、
「世間よし」があってはじめて「自分よし」になるからである。

以前、リーグそのものの設立に携わった某球団のオーナーが、
ドラフト制度は憲法違反であると訴えた。
人気と実力のある自分のチームに入りたい意志を持つ選手が入れないのは、
個人の基本的人権を侵しているというのだ。
1チームだけでリーグが成立するわけがないのに。

マスコミの盟主として創成期のテレビに自分の球団だけを写し、
必然的に全国的には自分の球団しか認知されず、
それを見る人をファン(サポーター)であると勘違いした。
ファン(サポーター)とは、そういう人たちを言うのではない。
彼は、テレビの向こう側にいる人に
「おめでとうございます」と言う気持ちは決して持ち得ないだろう。

球界自体がフランチャイズというあるべき形に変わっていき、
テレビ放映の独占が失われていくと、
育成という理念を持たない球団は、
金による選手の引き抜きでしかチームを強くすることはできなくなる。
そこには本当のファン(サポーター)はいない。

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広島銀行本店の巨大横断幕。これはすごい。
地元経済に支えられている地方銀行は、ファンが球団をつくっていることを肌で知っている。
よくやったぜ!広銀。

誰に対して「おめでとうございます」なのか

「おめでとうございます」という言葉は、
何かを成し遂げた相手に対し、そこに至る努力に敬意を表し、
その成し遂げた成果に対して祝う言葉である。
では、カープやサンフェレッチェのファン(サポーター)は何を努力し、何を成し遂げたのか。
チケットを買い、グッズを買い、熱心に応援し、
選手や球団を奮い立たせ、優勝という成果を成し遂げた。
しかし、一義的に、優勝したのはファン(サポーター)ではなく、選手を中心とした球団である。

一般的に「おめでとうございます」と言われるケースを考えてみる。
優勝、合格、受賞、入学、卒業、結婚、出産などなど、
どれもそれを成し遂げた本人に対するお祝いの言葉であって、それ以外の何物でもない。
それにはそれをサポートした人も入る場合もあるが、それはあくまで副次的なもので、
対象は本人である。
応援してくれた人に当事者が「おめでとうございます」と言うのは、
あるようで、なかなかないケースなのである。

で、いろいろ考えた。
そして思い浮かんだのが「あけましておめでとう」である。
「あけましておめでとう」は誰に対して言っているのだろうか。
言う相手に対してだ。
ただし、その相手は自分の知り合いの数だけいる。
では、その相手は何を成し遂げたのだろうか。
何も成し遂げていない。
ただ自分と相手を含むこの世全体が新しい時間を刻んだだけだ。
そのことに対して「おめでとうございます」と言ったのだ。
では、自分のまわりともいうべき、自分と相手を含むこの世全体とは何だ。
それをまさに「環境(Environment)」と言うのではないか。

2050年のある日、35年前に締結されたパリ協定での約束が順守され、
各国の努力により温室効果ガスの排出がゼロになって地球温暖化にブレーキがかかり、
IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は全世界に向けて
「おめでとうございます。これで地球の危機が救われます」と言った。
この「おめでとうございます」は誰に対して言っているのか。
地球上の人類すべてに対してである。
全世界の人の努力により、温室効果ガスの排出が抑制され、
その結果として大気中の二酸化炭素濃度の上昇が抑えられたという成果を生んだのである。
地球温暖化防止のため中心となって旗を振ったIPCCが、
努力したすべての国と人を対象に、その成果に対して「おめでとうございます」と言ったのだ。

「環境」は、自分と世界を含むすべてのものだ。
自分のしたことは、すべて世界に反映される。
とても小さいけれど、自分は世界を構成する一員なのだ。

一人は世界のために、世界は一人のために。
緒方とぽいちの「おめでとうございます」がそれを教えてくれた。

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