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ゼロエネミッションへ(2015.10)

みんなもう忘れたのか

2年前の今頃、何が起きたか覚えていらっしゃるだろうか。
ちょうど2年前、実に重大な決定がなされたのだ。
日本時間の2013年9月8日、ロゲさんがカードをくるっと回して「トキョ」。
滝川クリステルが手刀を切って「お・も・て・な・し」

こんなはずじゃなかったのに。
どこで間違えたんだろう。
新国立競技場、エンブレムと東京オリンピックはケチのつけ放題になってきた。
エンブレムの再検討も大変だが、新国立競技場は時間もお金もかかるので大ごとだ。
気を付けた方がいい、二度あることは三度ある。
JOCも政府も戦々恐々としているだろう。

フェンシングの太田くんも涙を流して盛り上がったあの感動を
みんなもうすっかり忘れてしまった。
忘れやすいのは日本人の性だが、僕は忘れない。
オリンピック決定の感動ではない。
安倍さんである。

あの時、安倍さんは、IOC総会の最終プレゼンテーションで、
「私が安全を保証します。状況はコントロールされています」と言いきったのだ。
僕は忘れない。
あの時のプレゼンテーションの記録をひも解いてみると、
「汚染水は福島第一原発の0.3km2の港湾内に完全にブロックされています」
「健康に対する問題はありません。今までも、現在も、これからもありません」・・・


今も福島では毎日約350tの汚染水が発生し、その貯蔵は限界に近づいている。
放射能処理設備ALPSは思うように稼働していない。
今年に入っては、
原発建屋の屋上にたまった汚染された雨水が港湾外の海に流出していたことが発覚した。
どこが「コントロール」されており、どこが「港湾内に完全にブロックされている」のか。
みんなもう忘れたのか。

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みんなもう忘れたのか。

原子力と再エネ・省エネのゆくえ

当時の本コラムにも書いたが、
あのプレゼンテーションを見て僕はとても驚き、かつ尊敬し、かつ危惧した。
安倍さんは福島の安全性を確約した後、こう言ったのだ。
「原子力の比率を引き下げます。そして、今後3年程度の間に、再生可能エネルギーの普及と省エネルギーの推進を最大限加速させます」

あの時から既に2年が経過した。
あと1年で「最大限加速」しなければならない。
接続拒否や賦課金問題で再生可能エネルギーにはブレーキがかかり始めているのだが。
もとより政治家の言だから、抽象的かつ巧妙な言い回しだ。
しかし、僕はあの時、安倍さんが福島の安全性を確約したこと以上に、
このエネルギー政策の方針の言及に驚いた。
これは国際公約だ。

震災を機に原発についての意見が百出する中、
その内容が注目されていた震災後初めてとなるエネルギー基本計画が
昨年4月ようやく閣議決定された。
その内容は、まず再生可能エネルギーについては、
「2013年から3年程度、導入を最大限加速していき、その後も積極的に推進していく」としている。
原子力については、
「安全性の確保を大前提に、エネルギー需給構造の安定性に寄与する重要なベースロード電源」と位置づけ、
「原子力規制委員会により世界で最も厳しい水準の規制基準に適合すると認められた場合には、その判断を尊重し原子力発電所の再稼働を進め」
「原発依存度については、省エネルギー・再生可能エネルギーの導入や火力発電所の効率化などにより、可能な限り低減させる」
としている。

案の段階では「ベース電源」だったのが「ベースロード電源」になったことに意見が集中したことはさておき、
この内容は、確かに「原子力の比率を引き下げます。そして、今後3年程度の間に、再生可能エネルギーの普及と省エネルギーの推進を最大限加速させます」
との言を踏み外してはいないが・・・

オリンピックに求められるもの

話を戻して、東京オリンピックである。
覚えていらっしゃるであろうか。
今回の東京オリンピックはリターンマッチだった。

前回、すなわち2016年の開催に向けて東京は招致活動を行い、
リオデジャネイロに敗れた。
この時、僕たちはIOCに提出する東京オリンピックの立候補ファイルと同時に提出する
環境アセスメントの仕事に携わった。
僕たちが担当したのは、CO2排出抑制技術の導入等を検討するため、
今はもうない!国立霞ヶ丘競技場をはじめ、
16ヶ所の競技会場のエネルギー設備とその使用状況を調査するものであった。
ちなみに、この時は、晴海にオリンピックスタジアムを新設するプランだった。

近年のオリンピックでは、環境への配慮が重要な要素のひとつとなっている。
1994年にパリで開催されたオリンピック100周年会議において、
「スポーツ」「文化」に加え、「環境」をオリンピック精神の第三の柱とすることが宣言され、
2000年のシドニー大会では「グリーンゲーム~緑の大会」という考え方が導入され、
2012年のロンドン大会では立候補段階から
「持続可能なオリンピック」がメインコンセプトに掲げられた。

このロンドン大会では、
大会運営に直接起因するCO2排出量を標準ケースから28%削減し、
大会期間中に発生する廃棄物の埋立処分量をゼロにする目標が達成された。
2020年の東京オリンピックでは、
当然、環境配慮はこのロンドン大会を上回る必要がある。

実は、2020年は環境にとって重要な年でもある。
2020年は、気候変動枠組条約の京都議定書後の新しい国際枠組みが始まる年なのである。
まさにその年に日本で開催される東京オリンピックでは、
世界第5位のCO2排出国として、
象徴的な地球温暖化対策が否が応でも求められるのである。

加えて日本の場合、特殊事情がある。
それは、震災からの復興と原発事故の克服である。
安倍さんが「状況はコントロールされています」と言い切ったそれを
世界に向けて発信しなければならない。
それはすなわち、未来を予言し、未来を先取りした
安全で持続可能なエネルギーシステムの「野心的な実験」とその実現である。

東京オリンピックを野心的な実験場に

新国立競技場といえば、アーチ、そしてアンビルト。
建築意匠ばかりに話が盛り上がっている。
無理もない。オリンピックスタジアムというものは、建築意匠の頂点だ。
しかしだ、アーチの議論よりも、エネルギーの議論をしてもらいたいと思うのである。

今回の東京オリンピックは宿命を負わされている。
それは、先ほど言った安全で持続可能なエネルギーシステムの
未来を予言し、未来を先取りした「野心的な実験」とその実現である。
今ある一般論ではない。
繰り返すが、「野心的な実験」である。

ここ数年、小生のまわりの環境コンサルの仕事は、
エネルギーに関する業務が中心になっている。
社会全体も、
来年4月の小口電力自由化で生まれる7.5兆円の市場に向けて大きく動き始めている。

で、いろいろ考えるのである。
発送分離まで視野に入れた電力改革の推進、
スマートコミュニティに代表される地域エネルギーの展開、
世の中に夢のような話は多いが、どれも実現はなかなか難しい。
様々なエネルギーに関する様々な技術的な問題、
送電網や情報通信のインフラも脆弱すぎる。
あれをしようと思うと、これがないからダメ。
これをしようと思うと、あれができないからダメ。
現状から考えると何をするもの課題が多すぎる。

ならば、現状から考えるのをやめてみてはどうか。
あるべき姿を先に考え、そのためには何をクリアしていけばいいか考えたらどうか。
そう、いわゆる「バックキャスティング」である。

そう遠くない未来では、化石燃料と原子力に由来するエネルギーは使わない。
電気料金は、なし。
なぜなら、電気を買わないから。
しかも電気はいくらでもある。
・・・そんな未来がいいじゃないか。

各家庭には高効率の太陽電池と蓄電池が完備され、
一軒一軒で再生可能エネルギーで発電し、それを貯めて自由に使う。
事業用には水素と燃料電池をエネルギー源とし、発電所も送電線もない。

2020年は5年後だ。
技術はまだそこまで進歩しないから以上のあるべき姿は無理にしても、
新国立競技場では次のような様々な革新的設備を導入し、
「ゼロエネミッション」実現の場としてはどうだろうか。
ちなみに、「ゼロエネミッション」とは、
排出物ゼロの「ゼロエミッション」と「エネルギー」をかけ、
さらに化石燃料や原子力によるエネルギーをゼロとすることを私たちの使命、
すなわち「ミッション」とする・・・小生が作った造語である。

わが国が世界に提案する新国立競技場は、
自由な形状がとれるフィルム状の太陽光パネルで屋根だけでなく外壁も覆われている。
外構には水素ステーションが設けられ、
水素をガスタービンで燃焼させて発電し、
燃料電池コージェネレーションシステムによる電熱供給が行われている。
競技場地下室にはおびただしい蓄電池が設置され、
施設で使用する電力はすべて自前で発電して蓄えられ、
エネルギーの地産地消が実現されている。
また、地下には大規模な雨水貯水槽が設けられており、
飲用水以外はすべて中水でまかなわれている。
さらにその下には、地下鉄をこえて地下数百メートルに通されたパイプにより、
地熱エネルギーがヒートポンプにより利用されている。
競技場と選手村、ホテル間の移動には専用の水素自動車が使われている・・・

あるべき未来に向けて、
日本がするべきこと。
高齢化・低成長の中で、足るを知ってみんなが幸せに生きるために、
日本がなすべきこと。

| コラム | 14:16 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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