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和食とシイタケが教えてくれた(2024.3)

「和食」のユネスコ無形文化遺産登録

平成25(2013)年に「和食;日本人の伝統的な食文化」がユネスコ無形文化遺産に登録された。
そのいきさつをテレビでやっていた。

日本では平成23年から登録に向けての検討をはじめ、
和食といえば会席料理でしょうということで、
まずは京都府の無形文化財に「京料理・会席料理」を指定し、
その保持者としてかの有名な料亭「瓢亭」の料理人を認定した。
京都市も「京の食文化」を「京都をつなぐ無形文化遺産」に認定し、府の動きを後押しした。

しかし、日本に先行して活動し、
ユネスコの登録がほぼ確実視されていた韓国の宮中料理が落選した。
宮中料理はいかに豪華であっても国民の幅広い参画と同意を得ているものではない
というのがその理由だったそうだ。

京都の料亭を中心にして動いていた検討会は、それを聞いて方向転換した。
高級な会席ではなく、正月のお節料理を前面に掲げたそうだ。
正月という決まった時に、国民のほぼ全員が一斉に食べる
―国民の幅広い参画と同意を得ている―というコンセプトを前面に押し出したのだ。

そして、キムチの「キムジャン文化」に方向転換して申請した韓国と一緒に
平成25年12月にめでたく登録が決まったのである。

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和食がユネスコに登録された2013年以降、海外における日本食レストラン数は4年間で約5.5万店(2013年)から11.8万店(2017年)へと2倍に増加した。
資料:農林水産省ホームページ


所管する農林水産省によれば、「日本人の伝統的な食文化」とは、
「『自然を尊ぶ』という日本人の気質に基づいた『食』に関する『習わし』」と説明している。
そして「和食」の特徴として、次の4つをあげている。
 ➀ 多様で新鮮な食材とその持ち味の尊重
 ② 健康的な食生活を支える栄養バランス
 ③ 自然の美しさや季節の移ろいの表現
 ④ 正月などの年中行事との密接な関わり

小生としては、それに加えて「⑤ 様々な食文化との融合」をあげてほしかったな。
次項でご紹介する特別展「和食」では、
12の料理について和食かどうか尋ねるリアルタイムアンケートというのがあって、
「Yes」と答えた人が多かったのは多い順に、
すき焼き、お好み焼き、あんパンで90%以上の人が「Yes」である。

逆に「No」と答えた人が多かったのは多い順に、
焼き餃子、カステラ、オムライスで、70%以上の人が「No」である。

カレーの「Yes」61%とラーメンの「Yes」59%は少し少ない気がする。
小生に言わせれば、カレーもラーメンも、もはや世界に誇るべき完全な和食である。
あと、ラインナップにトンカツも入れてほしかったな。

うまみ

そんな中で、東京は上野の国立科学博物館で特別展「和食」をやっていることを知ったのだ。
期間は2月25日まで。
これは行かなきゃ、早く行かなきゃと思っていたのだが、
多分今年最後の東京出張が2月上旬にあったので、有休をとってスケジュールを伸ばし、
1日半かけて「かはく」に行ったのだ。

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「かはく」展示の後、全国を巡回展示することを知ったが、広島には来ない。行っててよかった。

2,000円の入場料からもその広く深い内容が伺い知れるが、
特別展「和食」は、期待どおりのものだった。
まず最初のコーナーのテーマは、「和食とは」だった。
そしてそのハイライトは「うまみ」だ。
僕はもうここでノックアウトされてしまった。

従来、人の「基本的な」味覚は甘・辛(塩辛い)・酸・苦の4つと言われていたが、
これに「うまみ」を加えたのが日本人だ。
今、「基本的な」と言ったのは、
これらの味はほかの味を混ぜ合わせてもつくることのできない独立した「基本味」だからだ。

長い人間の歴史の中で、5番目の「基本味」があることに気づいたのがすごい。
それに気づいたのは日本人で、だから「和食」はすごい。
「うまみ」は英語で書いても”UMAMI”だ。

西洋料理には「うまみ」はないのかというと、そうではない。
昆布のグルタミン酸は、トマトやアスパラガス、ブロッコリーにも多く含まれる。
鰹節のイノシン酸は牛肉や豚肉、鶏肉にも多く含まれる。
西洋人はそれに気づかなかったのだ。

西洋料理の基本的なソースであるブイヨンやフォンドボーは、
獣骨や香味野菜を煮込んでダシを取る。
それらにはうまみ物質であるグルタミン酸やイノシン酸が多く含まれ、
複雑で深いうまみがある。
しかし、「うまみ」が基本味であることには気づかなかったのである。
なぜ、気づかなかったのか。

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フォンドボーの極み、デミグラスソース、ビーフシチュー。
こんなに深く複雑な味なのに、どうして西洋料理では「うまみ」に気づかなかったんだろう。


西洋料理や中国料理ではバターやラードなど、動物性脂肪が重要な役割を果たす。
僕は、バターは油というよりも調味料だと思っている。
東坡肉(豚の角煮)を食べれば分かるが、豚の脂には味がある。

明治になるまで家畜を食べなかった日本では、昆布や鰹節で出汁をとって料理を作った。
そして、昆布出汁と鰹出汁をあわせれば、1+1が3になることを体験的に知っていたのだ。
「うまみ」は日本人にしみ込んでいたのだ。

海と山に季節に応じた多様な食材があり、動物性脂肪でごまかすことがないから、
食材そのものが持つ味を味わうこと、
そのために出汁の力を借りることを毎日の食で紡いできた。
日本人の日々の食は、まさに無形文化遺産なのだ。

昆布のグルタミン酸と鰹節のイノシン酸に続くのは、シイタケのグアニル酸である。
シイタケと言えば大分。
ユネスコの無形文化遺産ならぬ世界農業遺産が大分にあるのだ。
そしてその中心にあるのがシイタケなのだ。
しかも、世界農業遺産に登録されたのは和食のユネスコ登録と同じ2013年。

特別展「和食」の訪問と前後して、たまたま機会があり、
大分の国東半島に世界農業遺産の視察に行ったのだ。

国東のクヌギ林より

大分の世界農業遺産のテーマは、
「クヌギ林とため池がつなぐ国東半島・宇佐の農林水産循環」だ。
これはある意味すごいテーマだ。
日本の農業、いや、日本の社会全体の問題を大上段に振りかぶっている。

クヌギ林、ため池とくれば、これはもう典型的な二次林、里山、中山間地域だ。
国東半島宇佐地域世界農業遺産のパンフレットには、
「森の恵み しいたけの故郷」と大きな字で印刷されている。

クヌギ林とは、もっと言えば薪炭林だ。
昭和30年代からの高度成長期に起きた燃料革命で薪炭林は死語になり、
それとともに手入れされた明るい落葉広葉樹林は文字通りの雑木林になり、
西日本ではぐちゃぐちゃの竹藪混交林になってしまった。

平成に入ると少子高齢化で手入れする人はおらず、里山は荒廃していった。
中山間地域では、荒廃どころか限界集落から廃村に向かわんとする集落も多い。
そんな中で、クヌギ林とため池を大上段に、前面に打ち出した世界農業遺産である。

国東では、廃校を活用した七島藺学舎で、
国東半島宇佐地域世界農業遺産推進協議会の林会長からレクチャーを受け、
クヌギ林の現場を案内してもらった。

クヌギは根元で切られ、萌芽が始まっていた。
薪炭林は、萌芽から伐採まで15年程度で回していく。
その実際の場面が見られるのは貴重だ。

隣のエリアでは、山の斜面にほだ木が伏せ込んであった。
ほだ木は結構重く、伏せ込みも全部人力だそうだ。
伏せ込みに際しては、伏せ込む斜面の上からほだ木を落とし込む。

シイタケは物理的な衝撃が発生のきっかけとなることは小生も知っていた。
なので、伏せ込む時は、ほだ木を斜面の上からがたがたと落し、
それを規則正しく組んでいくそうだ。
伏せ込み方もいろいろあって、崩れないよう、かつ取り込みやすいよう組むそうだ。

原木の玉切りから始まって、駒打ち、その後のほだ場への移動など、
シイタケ栽培の一つひとつの作業が大変な重労働だ。

しかし、これだけ手入れされたクヌギ林は見たことがない。
農業遺産だが、植生遺産というものがあったら是非指定してほしい。
人の営みによって維持されてきたかけがえのない二次林。
そしてそこに生育・生息する生きもののつながり。
生態学や植物社会学で習うまさにその典型的な、本物の二次林がそこにはあった。

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ほだ木の伏せ込み。ほだ木を組み、直射日光が当たらないようその上に切ったクヌギの枝をかぶせてある。

林会長のレクチャーは、少子高齢化の話から始まった。
そうして小中高校生への環境学習の話で終わった。
命を、農業を、自然を、次の世代につないでほしい。
世界農業遺産の指定に向かって努力した人たち、
そしてそれを日々実践して維持している人たち。

和食とシイタケ。
「うまみ」を知る日本人なら、
海と山の季節に応じた多様な食材と人の手でつくり育てた林を大切にする日本人なら、
自然の中で人間はどうあるべきか、ほんとうのものは何か、
謙虚な心で感じるものであってほしい。

| コラム | 11:04 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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