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「豊か」ということ・「足りている」ということ(2024.2)

東京にて

昨年、何度か東京に行った。
汐留で会合があり、そのついでに在京の人に汐留のタワーマンション群を案内してもらった。
彼女はそのうちの一つのマンションを仕事場としているので、
マンション入り口のテンキーを解除できる。

それはまるで照明のないホテルの廊下だった。
閉ざされた暗いひんやりした空間。
人っ子一人いない。自然はもとより、生活の香りがしない。

彼女の説明によれば、再開発で建ったので、元の住民は優先的に入居できたのだそうだ。
ということは、子どものいる家族もあっただろう。
しかし、子どもの時からこんなところに住んで、
「近所」なんてなく、学校以外の誰とも会わず、外で遊ぶこともなく、
毎日一人で閉ざされた空間を行き来するだけだ。
この子はどんな子になるんだ。この子の未来はどうなるんだ。
僕は嫌だ。絶対こんなところには住みたくない。

「向こうに見えるのがレインボーブリッジで、あそこに見えるのがオリンピックの時の選手村よ」
という彼女の声を聞きながら、
いつか建て替えの時期が来るこのタワーマンション群の、
そこに住む子供たちの未来のことを思った。

image002_202401300851132e1.jpg
汐留から浜松町にかけてはタワーマンションが林立している。
小生が学生だった頃は小さなビルと民家と倉庫だったのに。
浜松町では高さを誇ったあの貿易センタービルが解体中だった。


16年後の日本

年が明け、新聞ではこれからの日本を展望し、その未来を憂う記事が多い。
曰く、「縮減社会」「八がけ社会」・・・
その未来は、あらゆることがどうにもならなくなっている全く不都合な社会だ。

ことの発端は、
リクルートワークス研究所が発表した「未来予測2040 労働供給制約社会がやってくる」だ。
そのシミュレーションによれば、
16年後の2040年には、1100万人余の労働供給が不足するという。
これは現在の近畿地方の就業者数が丸ごと消滅する規模だそうだ。

16年後なんてすぐやってくる。
それは産業・企業視点からの単なる人手不足ではなく、
「生活を維持するために必要な労働力を日本社会は供給できなくなる」ということだという。

「生活を維持するために必要な労働」とは、一番わかりやすいのは行政サービスだ。
ごみやし尿の処理、水道などのライフライン、警察や消防の仕事、道路や川の維持管理などは
人口が減っても減らすことができない基幹サービスだ。
この基幹サービスを担う人材が縮減する。

これらを担う地方公務員は、2040年には必要な数の8割になるという。
昨年度に実施された職員採用試験では45都道府県が採用予定数割れだったそうだ。
既にそれは始まっているのだ。

自治体の環境関係の仕事をしていると、最近多くの自治体で問題になっていることがある。
それはごみの戸別収集である。
高齢者や障がい者が歩行困難になり、自分ではごみステーションまでごみを出せなくなったため、
戸別収集を実施するというものである。

戸別収集は、自治体にとってはごみ処理経費の増加という形で跳ね返ってくる。
そして、高齢者は年ごとに増えていくのである。
人口が少なく、行政面積が広い自治体では、特に切実である。
高齢者は行政区域内に広く散らばる小さな集落に住んでいる。
集落を回ること自体が既に大変なことなのである。
そして、地方公務員は減り続けるのである。

基幹サービスは行政が担うものばかりではない。
交通や運送、電気や郵便、医療や介護など民間が担うものはより厳しい現実に直面する。
直接的な影響の後には、さらに追い打ちをかける事態が待っている。

これまであたりまえのように受けることができた基幹サービスのいくつかは
各自が時間を割いて対応せざるを得ないようになり、
そのために今まで問題なく送れていた生活が破綻し、仕事どころではなくなってしまう。
何とも惨憺たる未来である。

横浜にて

東京に行ったついでに横浜に行く。
横浜周辺には、かつて東京で勤めていた時の同僚や、高校の同級生がいるのだ。
いつもの野毛で飲む。

同級生の一人がグチる。
彼はマンションの管理組合の世話役をしている。
マンションは築数十年で補修が必要なのだが、組合の意見がまとまらない。
みんな自分の事情ばかりで共同体としての意見がない。
そもそも組合の会合に出てこない住民も多い。
昨日も会議とは名ばかりのケンカをしてきたと言う。

彼の悩みはもう一つあって、それは彼の息子の家を買いたいという相談だ。
上記のような状況もあって、彼の息子はマンションではなく戸建てを買いたいのだそうだ。
「それはいいじゃないか」と言うと、「それがね・・・」と続ける。

「買いたい家というのが品川で、たった18坪しかないのに8千万なんだよ」
「なんじゃそりゃ!」
生涯かけて夫婦で働いた対価が18坪か。
何かが間違っているんじゃないか。

先の「未来予測2040 労働供給制約社会がやってくる」では、
東京都を除く全道府県で労働供給不足になるとしている。
そしてこう続ける「東京は日本の大きな社会課題から切り離された状態となり、
特にホワイトカラー層は課題を早期に認知することが難しいかもしれない。
そのことが日本の政治・経済における労働供給制約への議論を阻害するおそれがある」と。

知足

横浜に行った時、かねて見残していたいくつかの博物館に行った。
ひとつはみなとみらいにある横浜みなと博物館、もう一つは本牧の八聖殿である。

横浜みなと博物館では、
黒船来航から横浜開港までの歴史をマルチビジョンの映像で紹介していた。
ハイライトはペリーの要求を老中阿部正弘が理路整然と拒む場面である。

ペリーの要求は、開港と通商条約の締結の2点だった。
幕府側は、開港は同意したものの通商条約の締結は拒んだ。
ペリーの主張とアメリカ大統領の親書の内容の齟齬をついたのだ。
幕府はこの時既に清がアヘン戦争で敗れたことを知っており、
通商条約を結んで予期しないものが持ち込まれることを恐れたのだ。
この時のセリフは、
「わが国には、わが国だけで生きていけるものがある。新たに外からのものは必要ない」だった。

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横浜みなと博物館は、みなとみらいのシンボル日本丸のすぐ横にある。

一方、本牧の八聖殿では、
本牧が横浜の海の入り口にあたる漁村であったため、
ペリーの艦隊の一員が当時の本牧の様子を書き残したものを紹介している。

それによれば、「この国の人々の家や着ているものは粗末でみすぼらしい」と記している。
まさにイザベラ・バードの「日本奥地紀行」の世界だ。
しかしその後、こうも記している。「しかし、彼らはとても幸せそうに暮らしている」
そして村人たちに「あなたたちは、もっといろいろなものが欲しいだろう?」と聞いたら、
「必要なものはすべてあり、楽しく暮らしているので、自分たちはこれでいい」と言ったそうだ。
まさに「足るを知る」だ。

これからの日本に必要なもの

少し静かに考えてみよう。
これからの日本に必要なものは何か。
逆に言うと、ないと困るのに足りていないものは何か。
石油か?天然ガスか?レアメタルか?
それは、まず第一は、食料じゃないか。

「安全保障」という言葉が好きな人に聞いてみたい。
「安全保障」とは、有事に備えて準備しておくことだろう。
もしもの時、絶たれると困るものを確保しておくことだろう。
絶たれると困るものはいろいろあるが、何より食料じゃないのか。

わが国の食料自給率は、さすがに米は94%だが、小麦は16%、大豆に至っては6%である。
(受給率はいずれも令和元年度の重量ベースの値)
今や日本食と化したラーメンをはじめ、そば、うどんの材料は84%輸入に頼っているということだ。
和食に必須の味噌、醤油、豆腐、納豆の材料は94%輸入に頼っているということだ。
もし小麦と大豆を締め上げられたら、僕たちの食卓はどうなるんだろう。

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納豆に醬油をかけて豆腐の味噌汁・・・これぞ和食
しかし、それらの材料の大豆は、94%輸入なのだ。

一番大事にしなければならないのは「農」ではないだろうか。
では、「農」を担っているのは誰だ。
日本の大きな社会課題から切り離された東京以外の地方じゃないのか。

数だけで決める民主主義は正しい進路を示すことができるのだろうか。
人口だけで考えると地方は今後も合区が続き、東京選出の議員だけが増える。
そんな人たちばかりでは、課題を早期に認知することはますます難しい。

僕たちにできることは何だろう。
「農」を「豊か」にするということは、地方を「豊か」にするということだ。
山や川、森や田んぼといつも関わり合うということだ。

「豊か」というのは「足りている」以上のものを追うことではないだろう。
「豊か」というのは「足りている」ことを知っていることじゃないかな。
「足りている」ことを知らないから、「豊か」になれないんじゃないかな。
そして、本当に「足りていない」ものを手当てしなければならない。

僕たちは、労働供給制約下で
持続可能で「豊か」な社会を作ること真剣に考えていく時を迎えているんだ。

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