つながりのしくみ(2023.6)
アマミノクロウサギとヤクシマツチトリモチ
いつだったか少し前
新聞か何かでアマミノクロウサギがある植物の種の運び屋だったという記事を読んだ。
ある植物とは、ヤクシマツチトリモチという植物で、
その名のとおり屋久島、種子島、奄美大島に分布する。
このヤクシマツチトリモチという植物はかなり変わった植物で、
他の植物の根に寄生する茎も葉もない、
見た目は数センチの大きさの赤い卵型をしたほとんどキノコである。
調べてみると、このキノコ状の植物体は花穂(果序)で、小さいつぶつぶで構成されている。
イメージ的には卵型になったヤマモモの実という感じである。
このつぶつぶが果実と思いきやそうではなく、つぶつぶは葉が変形したもので果肉ではなく、
実際の果実はこのつぶつぶの下に隠れているのだそうだ。
うちの庭は、油断しているとあちこちにナンテンが生えてくる。
わが家を縄張りとするヒヨドリくんの仕業である。
鳥が実を食べて種の混じった糞をするように、
動物を媒体として花粉や種を運んでもらう植物は、
花や実の匂いや果肉により媒体を誘因するが、
ヤクシマツチトリモチは果肉を持たないため、果実を食べる動物には恩恵がなく、
どんな動物がこれを食べて種子を運んでいるのかほとんどわかっていなかった。
それが、アマミノクロウサギが運び屋だったことがわかったというのである。
事の発端は、
ヤクシマツチトリモチがアマミノクロウサギにかじられた跡があることの発見だった。
神戸大学の研究グループによれば、赤外線カメラを設置し、
アマミノクロウサギがヤクシマツチトリモチを実際に食べる様子を確認した。
さらに、採取したアマミノクロウサギの糞塊を顕微鏡で観察したところ、
全ての糞にヤクシマツチトリモチの種子が含まれており、
その種は生きていることを確認したそうだ。
このことにより、ヤクシマツチトリモチはアマミノクロウサギによって生育地を広げ、
種の保存が担保されていることが分かったという。
いったいアマミノクロウサギはヤクシマツチトリモチの何にひかれて食べるんだろう。
いったいどういういきさつで
ヤクシマツチトリモチはアマミノクロウサギを送種者として選んだんだろう。
そこにはどういう自然の力が働いたんだろう。
そもそもアマミノクロウサギは環境省レッドリストの絶滅危惧IB類、
ヤクシマツチトリモチは鹿児島県レッドリストの準絶滅危惧である。
どちらも絶滅が危惧される種だが、よりアマミノクロウサギの方が危険度が高い。
両者の関係が分かった今、もしアマミノクロウサギが絶滅すると、
時を経ずしてヤクシマツチトリモチも絶滅するだろう。
人間の知らない生きもの同士のつながりは沢山あるのだ。

奄美大島にはこんな道路標示がある。左上の道路標識にも注目!
ドードーとタンバラコク
ここで思い出すのは、
このコラムの記念すべき第1回でとりあげたドードーとタンバラコクの話である。
それは、こういう話である。
ドードーは、17世紀に絶滅したモーリシャスを生息地とする飛べない巨鳥である。
天敵のいない孤島に棲む飛ぶ能力も警戒心もない鳥は、
人間の侵入であっという間に絶滅してしまった。
人々はこのドードーがいなくなって300年たった頃、あることに気づいた。
モーリシャスには大木となるタンバラコクという木があるが、
この木の若木がまったくないことに気づいたのである。
一番若い木の樹齢はドードーが絶滅してからの時間と重なる300年だった。
タンバラコクの種は硬い殻に包まれており、
それを消化できるのはドードーだけだったのである。
(但し、この説には異論もある)
ドードーの絶滅により、タンバラコクもほぼ絶滅したのである。

北九州市立いのちのたび博物館の前庭にあるドードーのオブジェ。
よく見ると…何と!プラスチックごみでできている。
サクラソウとトラマルハナバチ
小学校5年生の国語の教科書に採用された「サクラソウとトラマルハナバチ」は、
保全生態学を提唱した鷲谷いづみ氏の「タネはどこからきたか?」(山と渓谷社)
によるものである。
なぜこのような理科学的な内容が国語の教科書に採用されるかというと、
それはロジックの進め方を学ぶためである。
本文ではまず、サクラソウの花筒とトラマルハナバチの口の長さが一致すること、
女王バチの営巣時期とサクラソウの開花が一致することなどの事実を述べる。
自然はかくも不思議に共存関係を進化させてきたのだ。
これらの事実から、
トラマルハナバチがサクラソウの唯一の花粉の送粉者であることを結論づけている。
ここで重要なポイントは、「唯一の」送粉者ということである。
他の虫では、口の長さがサクラソウの花筒の長さにフィットしないのである。
どんな虫、どんな花でもいいのではないのだ。
それゆえ、
トラマルハナバチがいないとサクラソウは子孫を残すことができないことに言及している。
保全生態学では、
農作物の花粉交配用昆虫として外来種のセイヨウオオマルハナバチが移入され、
それがトラマルハナバチを駆逐していることも述べている。
トラマルハナバチが駆逐された後に来るものは・・・。

サクラソウとトラマルハナバチ
つながりやしくみは、どうやってできたんだろう
人知とはあさはかなものである。
取り返しのつかない300年がたってやっと自然のつながりが分かる。
自分たちの利益のために農業生産を高めることが、
長い時間をかけて積み上げてきた生きもの同士のつながりを断ち切ってしまうことに気づかない。
僕は想う。
複雑に絡み合った生きもの同士のつながり、自然のしくみのことを。
ニューロン(神経細胞)やインターネット網がそのミニミニ版だろうか。
このつながりやしくみは、どうやってできたんだろう。
そのつながりやしくみを構築するのにどのくらいの時間がかかったんだろう。
地球で今まで5回起こった大絶滅のうち、
最後の大絶滅は恐竜をはじめすべての生物種の70%が絶滅したと言われる
約6600万年前白亜紀末の大絶滅だ。
約6600万年かけて今のつながりやしくみができたということなのだろうか。
それともこの地球に生命が誕生した時からの40億年かけてできたのだろうか。
神が創り給うたことは、神のみぞ知る。
僕は神は信じないが。
いつだったか少し前
新聞か何かでアマミノクロウサギがある植物の種の運び屋だったという記事を読んだ。
ある植物とは、ヤクシマツチトリモチという植物で、
その名のとおり屋久島、種子島、奄美大島に分布する。
このヤクシマツチトリモチという植物はかなり変わった植物で、
他の植物の根に寄生する茎も葉もない、
見た目は数センチの大きさの赤い卵型をしたほとんどキノコである。
調べてみると、このキノコ状の植物体は花穂(果序)で、小さいつぶつぶで構成されている。
イメージ的には卵型になったヤマモモの実という感じである。
このつぶつぶが果実と思いきやそうではなく、つぶつぶは葉が変形したもので果肉ではなく、
実際の果実はこのつぶつぶの下に隠れているのだそうだ。
うちの庭は、油断しているとあちこちにナンテンが生えてくる。
わが家を縄張りとするヒヨドリくんの仕業である。
鳥が実を食べて種の混じった糞をするように、
動物を媒体として花粉や種を運んでもらう植物は、
花や実の匂いや果肉により媒体を誘因するが、
ヤクシマツチトリモチは果肉を持たないため、果実を食べる動物には恩恵がなく、
どんな動物がこれを食べて種子を運んでいるのかほとんどわかっていなかった。
それが、アマミノクロウサギが運び屋だったことがわかったというのである。
事の発端は、
ヤクシマツチトリモチがアマミノクロウサギにかじられた跡があることの発見だった。
神戸大学の研究グループによれば、赤外線カメラを設置し、
アマミノクロウサギがヤクシマツチトリモチを実際に食べる様子を確認した。
さらに、採取したアマミノクロウサギの糞塊を顕微鏡で観察したところ、
全ての糞にヤクシマツチトリモチの種子が含まれており、
その種は生きていることを確認したそうだ。
このことにより、ヤクシマツチトリモチはアマミノクロウサギによって生育地を広げ、
種の保存が担保されていることが分かったという。
いったいアマミノクロウサギはヤクシマツチトリモチの何にひかれて食べるんだろう。
いったいどういういきさつで
ヤクシマツチトリモチはアマミノクロウサギを送種者として選んだんだろう。
そこにはどういう自然の力が働いたんだろう。
そもそもアマミノクロウサギは環境省レッドリストの絶滅危惧IB類、
ヤクシマツチトリモチは鹿児島県レッドリストの準絶滅危惧である。
どちらも絶滅が危惧される種だが、よりアマミノクロウサギの方が危険度が高い。
両者の関係が分かった今、もしアマミノクロウサギが絶滅すると、
時を経ずしてヤクシマツチトリモチも絶滅するだろう。
人間の知らない生きもの同士のつながりは沢山あるのだ。

奄美大島にはこんな道路標示がある。左上の道路標識にも注目!
ドードーとタンバラコク
ここで思い出すのは、
このコラムの記念すべき第1回でとりあげたドードーとタンバラコクの話である。
それは、こういう話である。
ドードーは、17世紀に絶滅したモーリシャスを生息地とする飛べない巨鳥である。
天敵のいない孤島に棲む飛ぶ能力も警戒心もない鳥は、
人間の侵入であっという間に絶滅してしまった。
人々はこのドードーがいなくなって300年たった頃、あることに気づいた。
モーリシャスには大木となるタンバラコクという木があるが、
この木の若木がまったくないことに気づいたのである。
一番若い木の樹齢はドードーが絶滅してからの時間と重なる300年だった。
タンバラコクの種は硬い殻に包まれており、
それを消化できるのはドードーだけだったのである。
(但し、この説には異論もある)
ドードーの絶滅により、タンバラコクもほぼ絶滅したのである。

北九州市立いのちのたび博物館の前庭にあるドードーのオブジェ。
よく見ると…何と!プラスチックごみでできている。
サクラソウとトラマルハナバチ
小学校5年生の国語の教科書に採用された「サクラソウとトラマルハナバチ」は、
保全生態学を提唱した鷲谷いづみ氏の「タネはどこからきたか?」(山と渓谷社)
によるものである。
なぜこのような理科学的な内容が国語の教科書に採用されるかというと、
それはロジックの進め方を学ぶためである。
本文ではまず、サクラソウの花筒とトラマルハナバチの口の長さが一致すること、
女王バチの営巣時期とサクラソウの開花が一致することなどの事実を述べる。
自然はかくも不思議に共存関係を進化させてきたのだ。
これらの事実から、
トラマルハナバチがサクラソウの唯一の花粉の送粉者であることを結論づけている。
ここで重要なポイントは、「唯一の」送粉者ということである。
他の虫では、口の長さがサクラソウの花筒の長さにフィットしないのである。
どんな虫、どんな花でもいいのではないのだ。
それゆえ、
トラマルハナバチがいないとサクラソウは子孫を残すことができないことに言及している。
保全生態学では、
農作物の花粉交配用昆虫として外来種のセイヨウオオマルハナバチが移入され、
それがトラマルハナバチを駆逐していることも述べている。
トラマルハナバチが駆逐された後に来るものは・・・。

サクラソウとトラマルハナバチ
つながりやしくみは、どうやってできたんだろう
人知とはあさはかなものである。
取り返しのつかない300年がたってやっと自然のつながりが分かる。
自分たちの利益のために農業生産を高めることが、
長い時間をかけて積み上げてきた生きもの同士のつながりを断ち切ってしまうことに気づかない。
僕は想う。
複雑に絡み合った生きもの同士のつながり、自然のしくみのことを。
ニューロン(神経細胞)やインターネット網がそのミニミニ版だろうか。
このつながりやしくみは、どうやってできたんだろう。
そのつながりやしくみを構築するのにどのくらいの時間がかかったんだろう。
地球で今まで5回起こった大絶滅のうち、
最後の大絶滅は恐竜をはじめすべての生物種の70%が絶滅したと言われる
約6600万年前白亜紀末の大絶滅だ。
約6600万年かけて今のつながりやしくみができたということなのだろうか。
それともこの地球に生命が誕生した時からの40億年かけてできたのだろうか。
神が創り給うたことは、神のみぞ知る。
僕は神は信じないが。
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