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ゆく川の流れは絶えずして(2018.3)

ありえない!

その昔、12年暮らした首都圏から郷里の広島にUターンしてしばらくは、
東京生まれの埼玉育ちの妻は、見るもの聞くもの初めてのことが多く、
小生は気にも留めないようなことが驚きの連続だったようだ。

例えば、初めて宮島だったか海水浴に行ったとき、気持ち悪いと言ってなかなか海に入らない。
水もきれいなのに何が気持ち悪いのか尋ねたら、瀬戸内海は波がないのが気持ち悪いという。
関東で海水浴といえば房総だ。寄せては返す太平洋だ。
波のない海に初めて遭遇した彼女はこう言ったのだ。
「(両親の里の会津の)猪苗代湖の方がずっと波がある」。

その彼女が大声をあげて笑ったのが三江線である。
何がおかしかったかというと、電車が1両で走っているのがおかしかったのである。
三次の尾関山あたりを車で通った時だっただろうか。
「何てかわいいの。電車が1両で走るなんて初めて見た。信じられない」という。

別に、三江線じゃなくても、このあたりのローカル線、
山陰本線でさえ1両で走っている電車は珍しくない。
しかし、電車といえば首都圏の国電しか知らない人間からみると、かなりの衝撃だったようだ。

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その三江線はこの3月をもって廃線が決まってしまった。
大水害からの復旧のシンボルとなった井原川橋梁を走る1両編成の三江線のラッピング車両「三江線神楽号」。
その三江線も・・・
(写真:ぶらり三江線WEB(三江線改良利用促進期成同盟会・三江線活性化協議会))

変な川・江の川その1

その三江線はこの3月をもって廃線が決まってしまった。嗚呼。
「三次」から島根の「江津」までを結ぶから「三江線」といい、
「中国太郎」江の川に沿ってずっと走っている路線だ。
仕事で島根にはよく行くので、川本から粕淵まで、広い江の川の川岸の山裾に張り付くように、
線路とからまりながら走る道路をよく通ったものだ。
その江の川だが、この川は変な川だ。

何が変かというと、まず、その流路だ。
江の川は、広島県北広島町芸北の阿佐山に源を発し、はじめ南東方向に流れるが、
やがてほぼ直角に北東に進路を変え、三次で馬洗川、西城川とまさに巴型というか、
(三次の合流地点にかかる橋を巴橋という)X字型に合流し、
いきなり進路を再び直角に北西に変える。

さらにまた島根県の粕淵で今度は進路を再々度直角に西に変え、
最後は北西方向に流れて日本海に注ぐのである。

何が、変だって、最初は南東方向に向かって流れていたのに、ぐるっとほぼ1回転し、
最後は全く逆向きになって北西方向に流れて日本海に注ぐのである。
中国地方では、いうまでもなく中国山地が脊梁山地である。
瀬戸内海に向かって流れ始めた川が脊梁山地を突き破り、
こともあろうに日本海に注ぐとは。

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江の川流域図(資料:広島県河川課)
中国山地は、北東~南西方向の断層谷で形成され、この構造線に従って河川は流れる。
江の川が中国山地を貫く部分を江川関門といい、これにより中国山地は西中国山地と東中国山地とに分断される。

変な川・江の川その2

このことに関係するのだが、次に変なのが分水嶺だ。
江の川の場合、瀬戸内海と日本海の分水嶺は脊梁山地である中国山地ではないのだ。
その分水嶺は中国山地よりずっと南、安芸高田市向原町にある。

分水嶺というものは山地のピークにあるもので、いわば川の峠である。
しかし、この分水嶺は田んぼに囲まれたほとんど平らなところにあり、
全く分水嶺という感じのしない分水嶺で、「分水界」という。

この分水界を「泣き別れ」といい、市指定の天然記念物になっている。
なぜ、こんなところに分水界があるか。
それは、「河川争奪」が起きたからである。
この向原の「泣き別れ」と、谷を隔てた国道54号沿いの上根峠は、わが国でも有名な河川争奪の例なのだ。

image012_20180302105050c5a.png
河川争奪のしくみ。
国道54号で大林から根之谷川の流れる狭い谷を抜け、バイパスの高架とトンネルで通過する上根峠を上がって安芸高田市八千代町に入ると、突然視界が開け、広い谷底平野になる。
しかし、こんな広い谷なのに川は見当たらない。
河川争奪で根之谷川が奪った元あった河川(江の川水系の簸の川)の下流部分なのだ(図の点線部分)。

余談だが、ひとまとまりで意味のある英数文字が行替えによって2行に分離されること、
例えば、Environmentという単語が1行目の最後にEnvironがきて、
2行目の最初にmentとなるような行替えのことを「泣き別れ」という。
今時のワープロは「泣き別れ」回避機能が必ずついており、
「泣き別れ」には絶対ならないが、どちらかの行に収まるため、
長い単語や数字がある行では、前後の行で文字数が非常にアンバランスになる。

変な川・江の川その3

江の川は、源を発する広島県では本来、江の川とは言わない。可愛川(えのかわ)という。
島根県では江の川(ごうのかわ)ではなく、江川(ごうがわ)と言う。
江津に流れ込む川だから、江川なのだろう。
一方、可愛川の名は、日本書紀にも見られる古くからの呼び名だそうだ。
「えのかわ」の呼び名が先にあって、それを「江の川」と書いたという話なら分かるが、
そもそも可愛川はどうして「えのかわ」と読むのだろう。

同じ川なのに場所によって名前が違うのは、有名な例がある。
日本で一番長い川、信濃川である。
信濃川は長野県に源を発し、新潟県で日本海に注ぐのだが、
長野県では千曲川、新潟県では信濃川になる。
信濃の国の方ではなく、越後の国の方が信濃川なので、混乱してしまう。
しかし、ちょっと考えてみると、越後の人からしてみると、
信濃の方から流れてくるから信濃川なのだろう。

また、清流で有名な四万十川は、
正式に四万十川になったのは実は最近で、平成6年のことなのだ。
それまでは、もともと河口部の中村の人達が呼んでいた、
渡川(わたりがわ)が正式名称だったのだ。

しかし、「四万十」とは変な名称である。
島根の十六島(うっぷるい)など、数字が絡む地名は変なものが多い。
「四万十」の由来はアイヌ語とかいろいろな説があるようだが、現在でも定まっていない。

川の名前というものは、一般的に河口部での呼び名が採用される。
たいていの河川は河口部が開け、都市が発達して人口も多く、
そこでの呼び名がスタンダードになるのだ。
新潟の人が呼んだ信濃川にしてしかり、中村の人が呼んだ渡川にしてしかり。

しかし、江津の人が「ごうがわ」と呼んだ川はなぜ「ごうのかわ」なのか、
また、山陽側ではなぜ「えのかわ」なのか。
江の川は変な川である。

ゆく川の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず。
よどみに浮かぶうたかたは、 かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。

| コラム | 11:58 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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