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中華料理愛好家(2022.6)

ラーメンやカレーは日本料理なのだ

先月は「畳の日」の話をしたが、毎月15日は「中華の日」だそうである。
15日は月の真ん中…即ち中華…という語呂合わせで、
東京都中華料理環境衛生同業組合によって制定された記念日だそうである。
記念日というものは年一回だから有難いのに、年に12回も記念日があるのは反則じゃないか。
なので、月を年に代えて考えると、年の真ん中は6月である。
ということで、勝手に6月を「中華の月」とし、今回は中華料理についてお話してみたい。

小生は、食べ物に関してはかなり情熱を燃やす方で、
もちろん食べることも、そしてそれを作ることも大好きだ。
社会人になって名刺というものを初めて持ってから、個人的なものも持ちたくなって、
20代の頃、自分で「料理研究家」という肩書の名刺を作って持っていた(今も持っている)。

しかし、平野レミが自分のことを「料理愛好家」と言っていることを最近知って、
小生は大いに恥じ入り、大いに反省した。
自分が研究家なんておこがましい。小生はただの料理好きなのだ。

さて、料理愛好家の自分はたいていの料理は作ることができると偉そうに思っているのだが、
得意な料理と言えば、これはもう、中華料理である。
人が来た時に作り甲斐があるという事が大きな理由かな。

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わが家の中華調味料のラインナップ。甜面醤、豆板醤、芝麻醬、豆鼓、五香粉、花椒、オイスターソース。

どんな国、どんな料理でもそうだが、
外国の料理が別の国に入ってきてしばらくすると、その国風にアレンジされ、
極端な場合、別の料理になってしまう。

トンカツやアンパンはもとより、ラーメンやカレーはもはや日本料理である。
中華料理もその例に漏れない。
しかし、中華料理の場合は、アレンジされた日本風中華料理が、
本場の中華料理と認識されているものが多いようである。
僕自身がそうであるように。

味の素のCook Doは日本の家庭に中華料理を広めた優れた調味材で、
日本風中華料理の普及に大いに貢献しているものだが、
申し訳ないが僕は絶対に使わない。

日本化した中華料理

例えば、回鍋肉(ホイコーロー)である。
中華料理店で回鍋肉を注文した中国人が、
中国のものとは全く違うものが出てきて驚いたという話を何かで目にしたことがある。
何が違っていたか。
それは、キャベツである。

日本の回鍋肉では、キャベツは中心的な具材だが、中国ではキャベツは使わないそうだ。
中国では、蒜苗、すなわちニンニクの茎や葉などの植物体全部
(日本でいうニンニクの芽ではない)を使い、
また甜麺醤は使わないそうである。

回鍋肉は、日本に四川料理を広めた陳健民が、
当時の日本では手に入りにくかった蒜苗に代えて豊富にあるキャベツを使い、
日本人の口に合うように辛さをおさえて甘く仕上げて紹介したものが最初だそうだ。

ちなみに、回鍋肉は「鍋を回る」と書く。
どういうことかというと、
回鍋肉の肉はバラ肉の塊をまず鍋で茹でたものを薄く切り、それを鍋で炒める。
即ち、茹でる→炒める と鍋を使い回すから回鍋肉なのだ。
決して(とは言わないが)薄切り肉をそのまま炒めてはいけない。
たとえばCook Doだと、この重要な手順が省略されてしまう。

四川料理といえば、昔からラー油はあったが花椒(ホアジャオ)というものはなかった。
ちなみに、蒲焼にかける山椒と花椒は違う。
まず、植物として山椒と花椒は同じサンショウ属だが種が異なる。
山椒の和名はサンショウで、花椒の和名はカホクザンショウである。

四川料理の辛さは、豆板醤以外ではラー油よりも花椒に由来する。
花椒のシャープな辛さに比べればラー油なんぞはただの色つきゴマ油である。
無知な小生は、麻婆豆腐にラー油と山椒を振りかけ、
「何か違うんだよな」といつも思っていた。

広島には、(広島風)つけ麺と汁なし担々麺という似て非なるソウルフードがある。
前者はラー油、後者はラー油+花椒である。
前者も辛いのは辛いが、後者の方がより強烈であるのは言うまでもない。

ところで、麻婆豆腐の「麻婆」とは、
この料理を創作したおばさん(婆)があばた(麻)面だったので「麻婆」という名がついたそうで、
唯一、麻婆豆腐についての固有の料理名である。
従って、マーボー茄子やマーボー春雨などという料理名は大変おかしいもので、
中国では絶対に通じない実に日本的な名称である。

これらは麻婆豆腐の味付けや料理法を「麻婆」とした大変な誤解で、
この味付けや料理法は「魚香」というべきなのである。
「魚香」は、
ニンニク・ショウガ・ネギを炒めた(または揚げた)ものを調味料として使う料理法のことで、
麻婆茄子は魚香茄子が正しい名称である。

中華料理に酢豚という料理はない

次に、酢豚である。
酢豚は日本で付けられた名称で、中国に酢豚という料理はない。
ちなみに英語では”Sweet and Sour Pork”であり、これはまさに「酢豚」である。
正確には「甘酢豚」か。

酢豚の場合は、まず中国で変化が起きた。
中国では、酢豚は古老肉(古滷肉)もしくは糖醋肉(糖醋排骨)という。
「糖」は甘い、「醋」は酸っぱいという意味で、「糖醋」で甘酸っぱい。
「糖醋肉」でまさに”Sweet and Sour Pork”となる。

そして、古老肉は広東料理、糖醋肉は上海料理である。
2つの違いについてこれまたいろいろな説がある。
有力な説は、古老肉はケチャップ味でパイナップルが入り、
糖醋肉は醤油味でパイナップルが入らないというものだ。

小生が昔、東京の大きな中華料理店で聞いたところによれば、
酢豚にニンジンやシイタケなどの野菜を入れて砂糖と酢で味付けるのは後世の創作で、
元々は暖かい地域の料理で、
マンゴーやライチ―などのトロピカルフルーツで甘味と酸味を出す料理だということだった。

そこで、もともと糖醋肉があり、醤油とトロピカルフルーツによる控えめな味付けだったものが、
近世に入って欧米人が往来を始めると、彼ら向けにより甘みと酸味の強いパイナップルを入れ、
味を濃くするためにケチャップを入れた古老肉に変化していったのではないかと思う。

古老肉発祥の広東料理は、
「食は広州にあり」とい言葉があるくらい中国の中でも料理のバリエーションが広いところで、
ケチャップとかウスターソースとかカレー粉とか
それまでの中国にはないものをとり入れた料理が少なくない。
上海料理の糖醋肉は、パイナップルとケチャップによって広東料理としてアレンジされ、
古老肉が生まれたのではないかと思う。

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わが家の作「酢豚」。もとい、「糖醋肉」。野菜はタマネギとピーマンだけ。

まつわる言葉の多さは、その文化の表れなのだ

中華料理では加熱の方法が肝である。
従って、中華料理では加熱の方法を意味する多くの漢字がある。
加熱のうち「焼く」という方法は、日本ではただ「焼く」だけだが、
中華料理では小生の知るだけでも焼・炒・烤・煎・爆の5つがある。

ざっくりいうと、「焼」はエビチリのように大きく切った食材を焼くもの、
「炒」はレバニラのように切りそろえた食材を焼くもの、
「烤」はチャーシューのように直火で焼くもの、
「煎」はカニタマのように油を引いてじわっと焼くもの、
「爆」は高温の油で瞬時に処理するものである。

では、日本で名前のバリエーションの多い料理法は何だろうか。
小生は、その筆頭は生魚を素材にした料理だと思っている。
刺身、活き造り、薄造り、洗い、背越し、タタキ、なめろう、湯引き、などなど。
そのために特別な出刃や柳刃という包丁もある。

まつわる言葉の多さは、その文化の表れなのだ。

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