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自ずから然り・その2(2017.4)

蟻はどの足から歩き出すか

以前、トンボを擬人化したシンボルマークの制作に関わったことがあった。
最終案として提示された図案に意見を申し上げたのだが、
あまり真面目に受け取ってもらえなかった。
小生が何を申し上げたかと言うと、
図案化されたトンボは、1対の足が胸から、2対の足が腹から生えていたのである。

昆虫の足は6本だと知っていても、昆虫は頭・胸・腹の3節から成り、
6本の足はすべて胸から出ていることを、大人でも知らない人は多い。
さらに、なぜ昆虫の体は頭・胸・腹の3節でできているのか。
なぜ昆虫の足は6本で、胸から出ているのか。
6本もある足をどのようにして使って歩くのか。
専門家でも答えられない人は多いのではないかと思う。

仙人とよばれた画家・熊谷守一は、
日がな一日中地面にはいつくばってアリの足の動きを観察した。
アリは6本の足をどのように動かして歩くのか、観察したのだ。
高速度カメラなどではなく、自分の目で確かめようとし、
またそれができるところが尋常ではない画家の目だ。
彼の著作「へたも絵のうち」で彼は言う。

「地面に頬杖つきながら蟻の歩き方を幾年も見ていてわかったんですが、
蟻は左の2番目の足から歩き出すんです」

image001_20170331093110d3c.jpg
熊谷守一の代表作のひとつ「赤蟻」。
晩年に向かうにつれ、彼の絵は線と面だけで構成されるシンプルなものになってくる。
対象をとことんまで見つめ、凝縮して写しとったかたち。
彼の言葉を知っていると、つい蟻の左の2番目の足に注目してしまう。

生きものの体やその仕組みというものは、既成概念にとらわれていてはだめだ。
創造主のデザイン能力はわれわれの常識をはるかに超越している。
例えば、タコやイカである。

タコやイカは、分類学上は「頭足類」という。
なぜ「頭足類」というか。
それは、文字どおり、頭から足が生えているからである。
タコやイカは、足の位置を下とすれば、上から順に胴・頭・足である。
目の下、口のまわりから足が生えているのである。
何と不気味な!
そんな獣や人間がいたら、これは怖いよ。

そこまでじゃないけど、僕はゾウのデザインはすごいと思う。
鼻が手なんて、いったいどういう発想なんだ。
もし、ゾウの姿を知らなくて、その姿について、
「鼻が伸びて手になっている」と説明を受けたら、
あなたはその姿を想像できますか?

「飛ぶ」ということ

昆虫という動物は、太古の昔からずっと繁栄を謳歌してきただけあって、
驚異的なこと、わからないことが多い。
僕が一番わからないのは、「飛ぶ」ということだ。

飛行機が空を飛ぶのは鳥がモデルである。
飛行機の翼の断面は上部が膨らんだ形になっていて、
断面の長さが上部の方が下部よりも長く、
このため上部と下部とでは流れる空気の速さと圧力が異なる。
これにより、翼を上に持ち上げる力(揚力)が働き、浮上するのだ。
ただし、それには翼で空気を切る力、即ち推進力が必要となる。
推進力は、飛行機の場合はエンジン、鳥の場合は羽ばたきである。

image004_2017033109311320e.png
飛行の原理:翼の上部では下部と比較して空気が流れる距離が長いため、
流れる速度は速くなり、ベルヌーイの定理により圧力が低くなる。
この圧力の差により翼を上に持ち上げる揚力が働く。

難しいのは、空中で制止するホバリングである。
ある力が働けば、力を加えたものに対して必ず逆の力(反作用)が働く。
羽などで空気を押せば、体には反作用が働いて動いてしまう。
ヘリコプターは回転尾翼がなければ、
ホバリングすれば主翼の回転の反作用で機体が回転するだろう。
だから、ホバリングは飛翔や滑空などと違って、かなり難しい。
鳥でもホバリングができるのはハチドリぐらいではないだろうか。

虫のホバリングといえば、トンボである。
トンボは前後の羽がすごいスピードで上下逆に動くからホバリングできるのだ。
トンボは飛翔する虫の王者である。
オニヤンマの飛ぶ速さはとんでもない。
だからオニヤンマを捕まえるのは難しい。
佐々木小次郎なら百発百中だろうが。

昆虫の飛び方は様々であるが、
どうして飛べるのかわからないものばかりである。
しかも、俊敏にコースを変え、周りの空気の流れなどおかまいなしだ。

まず、チョウである。
あんな羽ばたきで、どうやって揚力を得るのだろうか。
また、軽いとはいってもあんな大きな羽を動かす力はどこからくるのだろうか。
鳥は胸筋が発達しているが、
チョウは筋肉もなく、羽が背中にただくっついているだけのように見える。

カブトムシなどの甲虫の飛び方も不思議だ。
固い羽を開いたかと思うと、その下の薄い羽を大きく広げ、いきなり飛ぶ。
助走や羽ばたきなど何もない。
しかも、チョウと違って、体は相当大きく重そうに見える。

「ブンブンブン」といえば、ハチが飛ぶ。
「プーン」はカだが、そばに来ると「キーン」といったような感じで、
その周波数は相当高いように思われる。
音からして相当細かく羽を動かしていることは想像できる。
ハチは1秒間に250回羽ばたき、小さい虫ほどその回数は多いそうだ。

カが近くを飛んでいても、
手や足にとまらない限り、空中で撃破するのは結構難しい。
何度も空振りで手をたたく。
もし、カが飛行機だったら大変なことである。
飛行機よりも何十倍も大きい巨人の手が周りで振り回されているのである。
この乱気流に耐えられる飛行機はあり得ない。

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クローバーにとまるヒメシジミ(広島県レッドデータブック・絶滅危惧Ⅱ類)
チョウはどうやって揚力を得て飛ぶんだろう。

ごく身近な虫たちを見てもわからないことばかりだ。
もし、虫たちはどうしてああいうふうにして飛べるのかがわかり、
それを人間の手で再現することができたら、
科学は相当進歩し、社会・文化に相当貢献できると思う。
人類の進歩は常に自然から学んだのだ。

物にはすべて理由がある

僕が好きな、そして尊敬する博物館の学芸員さんがいる。
彼がやる環境学習の様子を、
彼の下で毎年川の環境学習に取り組んでいる
小学校の校長先生に聞いたことがある。

川の環境学習では、カゲロウやカワゲラなどの水生昆虫を採取して、
シャーレに取り分けた虫をスケッチする。
子どもたちはルーペで見ながらそれぞれ虫の絵を描いていく。
絵が描けた頃、彼が言う。
「シャーレを持ち上げて、横から見てみよう」「どう?ペッチャンコだろ」

上から見ると、
目があって、触角があって、足があって、腹があって、虫の形をしているが、
横から見ると、何と!極薄である。
「うっすー」
子どもたちから驚きの声が上がる。

すかさず彼が聞く
「どうしてこんなに薄いんだろう?」「薄いと何かいいことあるのかな?」
子どもたちは考えるが、意見は出ない。
「この虫は、どこにいたっけ?どうやって採ったっけ?」
「石の裏に張り付いていたよね」

ここでやっと一人の子どもが言う
「石の隙間に入るためだと思います」
彼は言う
「そうだね。デブだと石の隙間に入れないよね。
じゃあ、なんでこいつらは石の隙間に入りたがるんだろう?」

川の魚たちはこれらの虫を餌にしていることを話し、
「川の流れにあおられて流れの中に出たらどうなるだろう?」
「食べられちゃう!」
体が薄ければ、石の間に入り込めるだけでなく、
水の抵抗も受けないことを話した後、彼は言う

「何で虫の体が薄いかわかっただろ。どうしてそうなったか、
『物にはすべて理由がある』んだ」

子どもたちに教えなければならないのは、虫の名前ではない。
授業の目的は、スケッチではない。
伝えなければならないことは、身近な自然の裏側にある自然の法則だ。

自然の法則は、思いつきではない。
自然界で起こるすべての「果」には必ず「因」があること。
それを気づかせ、気づくことによって自然のすごさを認識すること。
その認識の下に、
「果」の背後にある「因」を追い求めていくことの面白さに気づき、
その重要性を認識すること。
それが子どもたちに伝えるべき本質だと思う。
サイエンスの本質だと思う。

蟻はどの足から動き始めるか。
そして、それはなぜか。
自然は、われわれ人間がそうしたのではなく、
自ずからそうなっているのである。

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