2014年01月 | ARCHIVE-SELECT | 2014年03月

| PAGE-SELECT |

≫ EDIT

日本的なものとは

先月、食べ物の話を書いたら、
次から次へと気持ちがあふれ出てきて止まらなくなった。
で、今月も食べ物の話をしたい。
いつもの「えこらむ」とはちょっとタッチが異なり、気持ちが爆発するかもしれないが、
小生の最も得意とする分野であり、最も心血を注いでいる分野であるので、
どうかお許しあれ。

まずは、カツ丼だ

先月は、(特異な)食材という側面からお話をしたが、
今月は、料理法という側面からお話したい。
それも、特異なというより、意表をついたというか、食欲に忠実なというか、
最近の言葉で言うと、いわゆる「B級グルメ」というものたちになろうか。

日本では、お金さえ出せば何でも食べられる。食べられないものはない。
高いものは美味しくてあたりまえなのである。
小生が惹かれるのは、そのようなものではなくて(そのようなものも好きなのだが)、
高くなく、食欲に忠実で、独自の特徴がある食べ物である。

日本には、決して貴重種ではないが、地域には様々な亜種や地域個体群がある。
それぞれの地域で独自の発展をとげた食べ物には、
先月号で申し上げたように、その地域の風土・文化・歴史がしみ込んでいるのである。

カツ丼が好きである。ガッツリと美味いのは、カツ丼をおいて他にない。
食べ物屋でメニューに迷った時は、カツ丼である。
自慢だが、小生は、朝からでもカツ丼が食べられる。

さて、カツ丼というものは、カツを卵でとじるものである。
ところが、である。
岡山では、カツの上にデミグラスソースをかけたものがカツ丼なのである。
これを「デミカツ」とか「ドミカツ」とかいう。
普通の卵でとじたやつもないことはないが、これはわざわざ「卵」と言わなければ出てこない。

福井では、カツ丼といえばソースカツ丼である。
ウスターソースにくぐらせたトンカツがご飯の上にのって出てくる。
名古屋では、こりゃもう味噌カツだぎゃぁ。

image002_20140203100604ae6.jpg
デミカツ丼といえば、岡山の味司 野村。(出典:食べログ岡山)

image004_2014020310060881c.jpg
ソースカツ丼といえば、福井のヨーロッパ軒。(出典:ヨーロッパ軒ホームページ)

ライスの世界紀行

トルコ、ボルガ、シシリアン・・・
これらにはある共通性があるのだが、おわかりだろうか?
トルコはトルコ、ボルガはロシア、シシリアンはイタリアの地名である。
これらは、かの地の地名とは何の関係もない日本各地のご当地ご飯料理の名前なのである。
すなわち、「トルコライス」は長崎、「ボルガライス」は福井、
「シシリアンライス」は佐賀のご当地B級グルメなのである。

「トルコライス」はピラフとナポリタンスパゲティの上にトンカツをのせ、
ソース(デミグラス、カレー、トマトなど)をかけたもの。
「ボルガライス」は、オムライスの上にトンカツをのせ、デミグラスソースをかけたもの。
「シシリアンライス」は、ご飯の上に炒めた肉と生野菜をのせ、マヨネーズをかけたもの。である。

こうみてみると、これらには共通性があることがわかる。
すなわち、いずれも
 ①まず最下層にご飯をおく
 ②次にその上に肉をのせる
 ③最後にソースをかける
という構造になっていることである。
バリエーションは、「トルコ」ではご飯とスパゲティが共存すること、
「ボルガ」ではご飯に卵が加わってオムライスになっていること、
「シシリアン」では生野菜がのっていること、である。
「シシリアン」と似た構造の特殊な地域個体群としては、沖縄の「タコライス」がある。

image006_20140203100644c5a.jpg
トルコライス。長崎のツル茶ん(出典:食べログ長崎)

image008_201402031006486d2.jpg
ボルガライス。武生のヨコガワ分店(出典:日本ボルガラー協会ホームページ)

image010_201402031006423d9.jpg
シシリアンライス。佐賀のアリユメ(出典:食べログ佐賀)

image012_20140203100734979.jpg
タコライス。沖縄のキングタコス(出典:食べログ沖縄)

オムライス・カツのっけ・両がけ

と、ここまで書いて、
「豊ちゃん」の「オムライス・カツのっけ・両がけ」のことを思い出した。
これは絶対に書いておかなくてはならない。

「豊ちゃん」は、東京は築地市場の中にあるカツ丼などを看板料理とする「食堂」である。
たたずまいは「食堂」だが、料理はレストランである。
「オムライス・カツのっけ・両がけ」は、客の要望を聞いているうちにどんどん進化し、
できあがったメニューである。

豊ちゃんの「オムライス」は、ケチャップライスを卵で包んだものではなく、
オムライス=オムレツ+ライスである。
「オムライス・カツのっけ・両がけ」とは、
すなわち、皿にご飯を敷き、その上に千切りキャベツ、プレーンオムレツ、トンカツを順にのせ、
最後にカレーとハヤシライスを半々にかけたものである。
つまり、ご飯+オムレツ+トンカツ+カレーライス+ハヤシライスが一度に食べられるという感動の一品なのだ。

小生は学生の時にその存在を知り、その構成に感動した。
特に、「両がけ」というところにシビレた。
完璧だ。
これは真に欲求を満たすものと直感した。
そして、これを目当てにわざわざ築地まで食べに行った。
想像に違わぬそのたたずまい、味、量、すべてに大満足。
卵2個で作るプレーンオムレツはトロトロ。
結構厚いトンカツはサクサク。
それは「食堂」のそれではなく、レストランのそれであった。
学術的(!?)に言うと、
「オムライス・カツのっけ・両がけ」は上記の4つの「○○ライス」と同様の構造を持ち、
そのすべてを兼ね備えている(わずかに「トルコライス」のスパゲティの要素がないが)。

image014_20140203100739c4b.jpg
image016_201402031008023aa.jpg
(出典:ハマのアニイのガッツリ紀行)
これが「豊ちゃん」の「オムライス・カツのっけ・両がけ」だ。
今まで食べたものの中で、最も完璧な食べ物だ。
量もすごい。素晴らしい。
読者の皆様も、もし東京に行かれることがあれば、ぜひお試しあれ。
この小生がここまで言うのだから。


日本的なものとは

「○○ライス」とは、すなわち洋風丼である。
「○○丼」とは何か。すなわち、ご飯の上におかずがのったものである。
カツ丼はカツとじが、天丼は天ぷらが、鰻丼は鰻の蒲焼というおかずがご飯の上にのったものである。

ここで重要なことは、おかずはただのっかっているだけではない。
上の「おかず」に含まれる汁、
もしくは追加された汁(ソース)が下のご飯にしみ込んでいるということである。

「○○ライス」は、洋風おかずがご飯の上にのっかっている洋風丼である。
ただし、この場合、「丼」とは言わない。「プレート」というのである。
しかし、「丼」と趣旨はいっしょで、
ご飯に絡んだカレーやデミグラスソースやトマトソースが美味いのである。
まさにここ・・・
汁やソースが絡んだ「ご飯」というところが「○○ライス」や「○○丼」の肝であり、
それ故、これらはれっきとした日本料理なのである。
ここに来て、ライスの世界紀行は、日本に帰着した。

先月号では、その土地々々の食べ物には、
その地域の風土・文化・歴史がしみ込んでいると申し上げた。
それをもう1ランク上げて、「日本」というくくりで見てみると、
「日本的なものとは何か」というテーマがおぼろげながら見えてくる。

明治の頃、初めてカレーに接した日本人は、それを自分のものとし、
以後、ニンジンやジャガイモが入ってとろみのついた日本式カレーライス
(日本のカレーライスを食べたインド人が、これは何という料理か聞いたそうである)ばかりか、
カレー丼、カレーうどん、カレー南蛮、カレーチャーハンからカレーパン、カレーマンに至るまで、
様々なバリエーションを生み出したのである。

様々な亜種や地域個体群を生んだ、いや、今も絶えず生まれている「○○丼(○○ライス)」こそ、
日本の風土・文化・歴史がしみ込んだ最も日本的なものなのである。

| コラム | 10:03 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

| PAGE-SELECT |